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対話できる居場所の大切さ / 対話会&ごはん会レポート

書き手 ゴトウサトミ

再び、「豊かさとは」

今回、対話会&ごはん会の会場となったのは、東大宮駅から徒歩10分ほどの「cafe MICHIKUSA(カフェ ミチクサ)」。一見通り過ぎてしまいそうな奥まった場所に位置し、ドアを開けるまで何が待っているのかわからない隠れ家感がたまらない佇まいです。

カラオケスナックを改装した内装は初代店主のお二人によるもの

対話会のファシリテーターは、つい最近、初代店主のあんでぃさん、かおりさんからお店を引き継ぎ、2代目店主となったオガワジョージさん。エプロン姿でカウンターに佇む姿はすっかりその道の人かと思いきや、舞台俳優として活動しながら、地域密着型の展示や企画を実施しているという、さまざまなバックグラウンドをお持ちの方。どんな会になるのか、興味津々です。

ファシリテーター兼、店長という大役にはじめは緊張されていたよう

かおりさんいわく、彼にお店を任せようと思ったのは“居場所をつくる人”だからなのだそう。今回の対話会を通して、その言葉の意味が少しだけわかった気がしました。1回目と同じ「豊かさとは」をテーマにした第2回対話会&ごはん会の様子をお伝えします。

文章をつなぐ「ワンワード」

今回の参加者は私を含めて7名。本題に入る前に、ジョージさんの進行でシアターゲーム(※1)のひとつ「ワンワード」をすることに。

参加者が、順番に言葉をつないで1つの文章をつくりあげていく言葉遊びのようなもので、これがなかなか難しい。

例えば、一人目が「今日は」、二人目が「海で」、「犬を散歩していたのだけれど」..といった感じで進めていく。

※1 ゲーム感覚で行う俳優のトレーニングのひとつ

直感でつなぐから支離滅裂で、それゆえに面白いのだけれど、直前までどんなバトンが渡されるのかわからない緊張感に少しピリっともする。と同時に、ごく自然に前後の人とアイコンタクトが生まれて、自分の体がこの場所に徐々になじんでいく感覚がするのです。

適度に空気がほどけたところで、対話会へ。何度読み返したっていい、8つのルールをおさらいしましょう。

<対話会の8つのルール>

・何を言ってもいい。
・人の言うことに対して否定的な態度を取らない。
・発言せず、ただ聞いているだけでもいい。
・お互いが問いかけるようにする。
・知識だけではなく、自分の経験にそくして話す。
・話がまとまらなくてもいい。
・意見が変わってもいい。
・分からなくなってもいい。

バターナッツカボチャを哲学対話のコミュニティーボール(※2)代わりに

※2 哲学対話で使われるボールで、このボールを持っている人が話すことができる

「豊かさ」と「幸せ」

「あなたにとって豊かさとは」

・形のないもの
・朝おにぎりを握っている時間そのもの
・自分をご機嫌にさせるもの
・無機質な街で血が通っているお店や施設を見つけたとき
・カレールーをパキッと割る瞬間
・ちょうどいいを見つけられたとき

抽象的な感覚から、あるいは具体的な経験を交えながら、それぞれの豊かさを共有し合う中で「そもそもなぜ豊かさが大切なの?」というひとりの参加者の問いかけから、話題は自然と「豊かさ」と「幸せ」について流れます。

物質的には十分に満たされているのに「豊かだけど、幸せじゃない」をずっと纏っている気がするのはなぜなのか。豊かさと幸せの違いについてそれぞれが語る中で、そんな問いが投げかけられることもありました。

豊かさを考えることができる、という豊かさ

そんなモヤのかかった思考に、痺れる経験を共有してくださったのは「家財一式を捨てて、人とのご縁だけでどこまで行けるか実験したことがある」というかおりさん。これには皆も驚いたよう。「物がないと、初めは焦りを感じるけれど、慣れてしまえば意外と楽しいし、楽しいと思える状態の自分でいたいと思う」。「最終的に幸せと感じるかは、自分の感覚次第なのでは」とも。

さらに、アメリカに在住経験がある方のお話も印象的でした。「アメリカでは、物質的な豊かさが幸せに直結している。生き死にがかかわっている切迫感や緊張感と比べると、豊かさと幸せを切り離して考えられること自体が豊かなのでは」。

考えてみれば「何を幸せと感じるかは人それぞれ」を共通認識として話せるようになったのは、ごくごく最近のこと。たくさん稼ぐこと、仕事で成功すること、地位や名誉を手に入れること、結婚して家庭を持つこと…物質的に満たされ、多様性を尊重する今の日本社会で「これがあれば幸せ」の正解が消えてしまった私たちは、自分にとっての幸せを見つけるために、こんなにたくさん思考を巡らせている。そのこと自体が、もう十分に贅沢で豊かなのかもしれません。

ネガティブな思考から生に近づく

話すだけではなく、聞きながら自分の思考と向き合う時間も大切に

「今年の6月くらいに気がついて嬉しくなったことなんですが」と、ジョージさんが切り出したのは、ずっと自分が「死にたさ」を感じていたことを認められた、というお話。

「よりよく生きようとすると、それがダメだった時、『よりよく生きれなかった』と失敗した気持ちになるけれど、“よりよく死のう”とすると、それってもはやわからない領域。逃げ道ができたようで、生きるのが楽になったんです」。

何か前向きな兆しを見つけた表情で話すジョージさんに感化されて、話題はネガティブな思考から「生きよう」と前向きに思えたときの話に。

聞いていてハッとしたのは、「豊か」という言葉から匂い立つ、ポジティブさや贅沢さ、余りある何か、みたいなものに、少し抵抗を感じる人もいるのかもしれないということ。精神的な余裕がないときなら尚更、豊かさを感じられない自分を責めてしまうこともあるかもしれません。

でも、死にたさをポジティブに認められたように、ネガティブな感情から、自分を生に近づける方法があったっていいわけで。自分なりの生きていくすべを見つけた人のことを、あるいは自分を、誰もが認め合えたらいいな、と思ったのでした。

ミチクサ満喫プチコース

ちょっとずつ、いろいろ味わえるのが嬉しいコースメニュー
メインは野菜の甘みを感じる無水カレー

対話会の後は、ミチクサ特製のコースメニューをいただきます。cafe MICHIKUSAで元々定番メニューだった無水カレーをはじめ、1代目のメニューの多くを引きつぎつつ、試作もしているとのこと。

次々と運ばれてくる美味しい料理に満たされながら「あ、これも豊かさかもしれないですね」なんて、対話会の延長のようなおしゃべりに花が咲きます。

コミュニティボールとして活躍したバターネッツカボチャも、おいしくいただきました
バーカウンターには、やっぱりお酒が似合います

ここで改めて参加者のバックグラウンドを聞いてみたり、ちょっとした悩みを打ち明けてみたり。この場所は安全だと、すっかり信頼できているからか話題も広がります。

お店という舞台セットで、台本なしの即席の舞台を全員でつくり上げるような対話会&ごはん会。終わったあとは、私たちよくやったよね、という連帯感みたいなものが生まれていました。

対話会&ごはん会を終えて

緩やかに小さな話題がいくつも続くこともあれば、突然グッと深いところまで潜るようなタイミングもあって、改めて対話のおもしろさを実感した会でした。そうさせているのは、ミチクサという奥まった場所の空気と、ファシリテーターであるジョージさんなのでしょう。

ファシリテーターと言うと、場をまわす人、誘導する人、というイメージを持ちますが、ジョージさんの場合は少し違っていて。参加者の言葉に静かに耳を傾けながら「沈黙も楽しんでいいんですよ」「目の前の入れ物に、言葉をぽんぽんと投げ入れる感じにするといいかもしれません」と、そっと手を差し伸べるような進行に、どんな人も置いていかない、“居場所を作る人”のゆえんを感じずにはいられませんでした。

何がびっくりって、後半のごはん会では、2時間ほど前まではぎこちなく「初めまして」の挨拶をしていた人達とは思えないほど、しゃべって、笑って、飲んで、歌っていたのですから。

ちょっと道草した先に、こんな居場所があったなら

居心地のいい空気に、すっかり長居してしまいました

1代目店主のあんでぃさんによれば、店名「ミチクサ」には、その名の通りメインルートから少し外れた、サブクエストのような場所の意味合いが込められているそう。聞けばあんでぃさん、かおりさんご夫婦もなかなかにたくさんの道草、という名の冒険をしてきた人達で(それはまた、1本の記事になりそうなのでまたどこかでゆっくりお話を聞かせていただくとして…)、それゆえに、メインルートから迷い込んだ人たちを暖かく迎え入れる場所が作れたのだろうと思います。

ジョージさんによってそんな意思が引き継がれ、新たなお店の表情が見られるだろうこれからが楽しみです。

cafe MICHIKUSAが、ちょっとミチクサしてひと息つけるリアルな居場所だとしたら、いち書き手として、さいたま市に点在するそういう居場所を、まだ知らない人たちに指し示す役割を担えたらいいな、なんてことも考えたのでした。

オガワジョージ

「cafe MICHIKUSA」2代目オーナー。地域密着型一人演劇ユニット『赤キノコ山と蒸したお酢』主宰。創作広場「けい」作家部・俳優部。
Instagram : @joji_5foot

cafe MICHIKUSA

場所:埼玉県さいたま市見沼区東大宮6丁目29-11 1階奥
Instagram : @michikusa_saitama

書き手
ゴトウサトミ

埼玉出身、さいたま市浦和区在住。実用書、旅メディアの編集を経て、現在は都内勤務の会社員。せっかく暮らすなら、この場所をもっと知って、好きになりたいという思いで『さいのネ』に参加。人の好きなものの話を聞くのが好きです。

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