menu

Articles

地域で豊かに暮らし続けるためには?『コンドウハウス』が新しいコミュニティを創造中

書き手 石井梨乃

2022年4月。さいたま市緑区三室の住宅街に、築約60年の近藤邸を改修した『コンドウハウス』がオープンした。本格タイ料理をいただけるカフェかと思いきや、地域の人が出会い、繋がり、困りごとを相談できる「みんなの居場所」でもあった。「心豊かな暮らしのためにコミュニティ(つながり)を編み直したい」。運営する太田好泰(おおたよしやす)さんにお話を伺った。

写真左から立ち上げメンバーの太田好泰さん、高田芙美子(たかだふみこ)さん、近藤匡美(こんどうまさみ)さん

 実は、コンドウハウスは予期せずに始まりました

――コンドウハウスをつくった経緯を教えてください。

太田さん:それが長いんですができるだけ完結に(笑)。私はもともと障がい者芸術支援のNPOで働いていたのですが、その関係で障がいのある人たちの暮らし方が気になっていました。福祉施設か自宅で親と暮らすかの他に選択肢がほとんどなく、いわゆる「親亡き後」問題は当時も今も大きな課題です。そうした中、今から15年ほど前に『コレクティブハウス』に関わる高田さんに出会いました。

――コレクティブハウス?それはどのようなものですか。

太田さん:生活の一部を共同で行う北欧発祥の住まい方です。台所、浴室、トイレなどは各戸にありますが、食堂やリビングなどいくつかのスペースを共有しています。その中で私が特に魅力的な取組みだと感じているのが、食事を交代で作る「コモンミール」というものです。例えば20人の住人がいたら、1日夕飯を作れば残りの19日は他の人が作ってくれた夕飯を食べられるわけです。このコレクティブハウスの話を高田さんから聞いた時、障がいのある人もその暮らしの中に入ったら何か面白いことが起こるのではないかと思いました。ただ当時は忙しく、ぼんやり考えているだけで月日が経ってしまいまして。

撮影に訪れたタイミングで軒先に干し柿が吊るされていました

――生活の一部をシェアする、面白い住まい方ですね。では、太田さんが具体的な活動をするきっかけは何だったのでしょうか?

太田さん:きっかけはコロナ禍での社会環境の変化でした。非正規雇用の若い人が解雇され、それと同時に住まいを失ったり、シングルマザーが生活に困窮していくニュースに毎日のように触れる中で、住まいと暮らしの問題に改めて向き合いたいと思ったんです。ちょうどその時に、シニアの再チャレンジを支援する埼玉未来大学が開校したと知り、反射的に入学しました。そこで地域の課題をビジネスの手法で解決することについて学び『NPO法人新しい住まい方研究所』を立ち上げたんです。

――すばらしい行動力ですね!NPO法人新しい住まい方研究所での活動を詳しく教えてください。

太田さん:実は団体名を決めた当初、具体的な事業内容はまだ決まっていませんでした。というのも、住まいの確保やコミュニティの再生について考えたくて埼玉未来大学で学び直しはじめた、と友人に話したところ「それはぜひ応援したいから早く名前をつけて」とせかされまして(笑)。そんな時、空き家になっていた妹の義父母の実家をどうするか考える必要にも迫られていました。それを妹や昔の同僚、高田さんたちと話題にしていた中で「手はじめに我々シニア世代でコミュニティカフェをやってみる?」という話になりました。昔の同僚はケアマネジャーで、高田さんはコレクティブハウスに詳しい。それなら「カフェを入り口に、社会のつながり(コミュニティ)をつくり直す仕掛けを作ってみてはどうか」と。こうしてNPO法人新しい住まい方研究所の最初の取り組みとしてコンドウハウスの運営が始まりました。私が以前タイ料理店を経営していた経験があったので、カフェのメニューはタイ料理に、義父母の姓が近藤だったので名前はコンドウハウスにしました。

――色々なご縁やタイミングが重なり、そして繋がってコンドウハウスが誕生したのですね!

「見えない」困りごとを持った人たち

――コンドウハウスではどのような活動をしているのか教えてください。

太田さん:コンドウハウスでは週4日「Konキッチン」という名前のカフェの営業に加え、さまざまなプログラムを行っています。例えば、高齢の人に夕食を提供する「シニアの食堂」、介護に関わる人の休憩所「介護者カフェ三室」、高齢者の暮らし全般についてケアマネージャーに相談できる「大古里(おぶさと)サロン」、子どもの発達や子育て全般について不安を感じる親御さんと専門家が気軽に話し合える「子育てサポートサロン」などです。その中でも特に「三室・山崎子ども食堂」に手応えを感じています。

――子どもから高齢者まで、様々な方に向けた支援をされているのですね。子ども食堂ではコンドウハウスでお食事を提供しているのですか?

太田さん:コロナ禍で始まったこともあり、会食ではなくお弁当の配布を行っています。味はもちろん、いろどりにもこだわった手づくりの美味しいお弁当を心掛け、それもあってか口コミで広がり今では月1回80~90食ほど提供しています。

――80~90食とはたくさんですね!どのような方が来られるのですか?

太田さん:どのような家庭の方が来られているか、私たちは一切お聞きせずに運営しています。子ども食堂は生活に困窮している方が利用するというイメージがあるかもしれませんが、実際にはさまざまなスタイル(考え方)で運営されていて、私たちは事情は一切聞きません。別に困っていても困っていなくてもいいんです。それに目には「見えない」困りごともありますから。

――「見えない」困りごと?もう少し詳しく教えていただけますか?

太田さん:はい。例えば経済的に困っていても服装などの見かけではわかりません。それに経済的に厳しいことだけが「困っている」わけではありません。例えば、忙しくて時間がない、実家が遠くて頼れない、共働きで時間に余裕がなく家事をする時に子どもたちが騒いでいるとつい声を荒げてしまう、などです。子ども食堂は月1回だけですから「支える」などおこがましい。でも、家庭の中だけでなく子どもたちを地域の人たちがみんなでちょっとずつ支えるよ、という親御さんへの応援の気持ちも込めて開催しています。

ぷりっぷりのエビが美味しいエビチャーハン

望めば地域で暮らし続けられるように

――これまで活動してきた中で課題に感じることはありますか?

太田さん:まだ地域に暮らす人たちが支え合い続ける仕組みができていない、というのが課題です。以前、月に一度シニアの食堂に来ていた一人暮らしの高齢男性が「ご飯をつくれなくなり生活が立ち行かなくなったから助けてくれ」と突然ランチ時にやって来たことがありました。その時はお昼ごはんを提供したり、ケアマネージャーに繋いだり、見守りをしました。その後半年ほどでグループホームに入ることになったのですが、地域の繋がりや食事の提供といった仕組みがあればもっと長く住み慣れた自宅や地域の中で暮らせたかもしれません。「望めば地域で暮らし続けられる」ためにどうしたらいいか、は引き続き考えていきたいテーマの一つです。

――たしかに老後の暮らし、というのは誰もが考えるべきことですね。

太田さん:今の社会の中では「生産性のない人」=「役に立たない人」と考えられるようになっていると感じます。例えば、今までばりばり働いていた人たちも退職を機に「過去の人」として扱われる。それはとても残念でもったいないことです。

グリーンカレー。辛味、甘味、旨味のバランスが絶妙

――本当にそうですね。では、どのようにしたら退職後も社会と関わりを持って暮らしを続けていけるのでしょうか。

太田さん:さまざまな人が一緒に暮らすコレクティブハウスの起源である北欧では「役に立つ」に関して全く違う考え方がされています。日本人が見学に行くと「歳をとって役割を果たせなくなったらみんなに迷惑をかけてしまいます。そうしたらどうするんですか?」という質問が必ず出るのだそうです。すると北欧の方は驚いて「高齢者にもできることはあるでしょう。例えばお花を摘んできてテーブルに飾る。それで十分なのです」と答えたと聞きました。

――なるほど。目に見える「労働」だけが「役に立つ」ことではないですものね。

太田さん:本来は、誰しもそこにいるだけで、お互いに色々なものを与えあっています。だから無理をして何かやろうとする必要はありません。できる人ができる時にできることをやればいいのだと思います。そうやって地域の人がもう一度繋がり直せるのが理想ですね。高齢者だけではなく、出産後、子育て中、療養中とか頼りたい時は誰にでもくるはずですから。地域で暮らしていくことを自分ごととして、少しの想像力を持って皆が考えていけたらいいなと思います。

地域全体を家に

――今後、コンドウハウスでやっていきたいことはありますか。

太田さん:地域全体が家になるような仕組みづくりをしていきたいです。一棟の集合住宅で成り立つコレクティブハウスから進んで、地域全体をコレクティブにしていく、「タウンコレクティブ」と呼ぶ取り組みが提唱されはじめています。このことにとても興味を持っています。例えばコンドウハウスを地域の台所や地域の居間として使う。元気な人は週一回、月一回とご飯をつくりに来て、残りの日は食べにくる。ご飯づくりができなくなったらできる人におおいに頼ってもらっていい。できるうちは一緒につくりましょう、というスタイルです。また、コンドウハウスにはミシンがあるので、幼稚園や小学校の小物(袋物)をみんなでつくる、または高齢の人が親御さんに代わってつくる取り組みとか、居間を公開して地域の人が気軽に集まれる空間として使ったり…

――そうやって地域の色々な人が集まり、世代を越えたコミュニティができたら楽しそうですね!

太田さん:はい!さらには社会の役に立つ、何か面白いことをしたい人達が集まれる場にもしていきたいです。実際にここに集った仲間と話していたら5人中3人が不登校のお子さんを持つ親だったことがわかり、同じ境遇の親の居場所づくりが始まりました。そうやって豊かなコミュニティをつくるためにコンドウハウスという場を使い倒してほしいです。

少し先の未来を想像する入口に立って

ちょっと想像力を持って考えて欲しい。今より少し広がった自分のコミュニティ、少し先の未来。私はどんなコミュニティの中でどんな暮らしをしていたいだろうか。最期まで豊かに暮らすためには今、自分に何ができるだろうか?そんなことを考え、誰かと話すためにふらりとコンドウハウスに寄ってみるのもいいかもしれない。

コンドウハウス

住所 : さいたま市緑区三室680-1
お問い合わせ :
電話番号 / 048-711-4990
Instagram / @kondo.house
メールアドレス / sumaikata@nifty.com
< Konキッチン>
営業日時:水・木・金・土ランチ11:30~14:00(LO13:30)ティータイム14:00~16:30(LO16:00) ※その他のプログラムについてはSNSをご覧ください。
駐車場:2台(予約優先)
HP:NPO法人 新しい住まい方研究所

書き手
石井梨乃

浦和出身。住みたい場所を探して全国を旅したり地方で働いたりするも再び見沼田んぼの地を踏んだ時、ここだ!と確信。現在は「植物と人、畑と街を結ぶ」をモットーに見沼で有機農業を営む。夢は「GARDEN」という村を創ること。趣味は野草摘みと季節の手仕事。

石井梨乃をフォローする
さいのネ
Share!
地域コミュニティ居場所緑区