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花から広がる人とのつながり/ 森航太

書き手 ゴトウ サトミ

2月にしては暖かく、どこか軽やかな空気が流れる日曜日の午後。ご自宅へ伺うと、ニュアンスのあるゆったりとしたニットを着た森さんが、忙しい合間を縫って快く迎えてくれた。花と緑と古道具に囲まれた森さんの部屋は、明るい日差しがとてもよく似合う。

暮らしの温度を感じる、植物と古道具と音楽に囲まれたご自宅

「高校生の時、サッカーで少し大きな怪我をしたことで、医療関係の方たちの存在が身近になりました。同じ時期に祖母が倒れて、入院した病院で実際のリハビリの現場を目にする機会があって。そのときの作業療法士の先生が、今同じ立場で考えても関心するくらい、丁寧で優しかったんです。そこから、作業療法士を目指したいなと」。

東京に生まれ、物心ついた頃から今に至るまでさいたま市周辺で育ったという森航太(もりこうた)さん。病院で作業療法士として勤めながら、古着屋や飲食店のスペースを間借りしながらの花屋『comons(コモンス)』を運営し、さらには蓮田市とさいたま市内のキャンプ場で開かれる音楽フェス「oto camp(オトキャンプ) 」の主催を務めている。

「最近は、ありがたいことに花とイベントの活動が増えてきています」。そんな、とある彼の1日のスケジュールを聞くと、朝5時頃に起きて市場で花を仕入れ、8時頃にいちど自宅に戻り、職場である病院に出勤。そこから18、19時頃まで作業療法士として働き、帰宅後は依頼を受けたお花のアレンジメントや、イベントの準備をして、気がついたら日付が変わっている、それどころか、繁忙期はそのまま朝までなんてこともあるという。

「好きなことには全力で臨みたいので!」と熱を持って答える様子に、その華奢な身体のどこにそんなパワーが秘められているのだろうかと驚かされる。

コロナ禍に助けられた「花」の存在

花屋を始めたきっかけは、女性へのプレゼント。ちょっとした贈り物として、なんの気なしにあげた花をとても喜んでくれたことから、人の気持ちを動かす花の力に魅了された。

全て独学だという花しごと。「この花は?」と聞けば、特徴から花言葉まですらすらと教えてくれる

「麻紐のくくり方から、花束やスワッグのつくり方、ラッピングまで、花のことはSNSや動画で学びました。お手本を見ながらつくるだけではなくて、友人から頼まれて、『やったことないけど、こうかな』と試してみると意外とつくれたんです。自分が持っているセンスというか、スキルみたいなものと花との相性がよかったみたいです」と、誇張するわけでもなく、淡々と当時のことを話す様子からは、花と“出合うべくして”、といった印象を受ける。

当時、世間はコロナ禍。医療従事者として常に緊張感に包まれ、制限の多い日々の中で、彼自身が花に寄る辺を見つけたのも大きかったという。

「自分が罹患したら目も当てられないですし、毎日ビビっていました。怖くて電車にも乗れなくて、自転車で行ける範囲内の生活の中で悶々として。そんなときに、花に助けられたんです」。

花屋comonsのはじまり

花と同じくらい、今の森さんを構成するうえで欠かせない古着や古道具、音楽を愛する感性は、地元・大宮周辺で出会った感度の高い大人たちに囲まれて自然と育まれた。

「大宮の古着屋『BANKARA(バンカラ)』の、古着と古道具、緑に囲まれたあの空間を高校の制服を着ていた時からずっと見ていました。通ううちに顔を覚えてもらい、スタッフの兄さん、姐さんたちの家に遊びに行かせてもらったことも。古着のことから、生活、恋愛のことまで、なんでも話すようになりました。みなさんすっげぇセンスがよくて! 上の世代にそういうかっこいい方たちがいたのは、本当にありがたいですし、大きく影響を受けていると思います」。

「たくさんの人とカルチャーに触れる中で『ひとり暮らしをしたらこんな風にしたい』という思いが爆発したのが今の部屋です」(森さん)

そして、森さんを語るうえで欠かせない人物がもうひとり。

 「学生時代、アルバイト先のカフェで、お店のメニュー看板を描くとか、ちょっとしたデザインをしていました。それを面白がって声をかけてくれたのが、当時そのカフェの空間デザインをしていた『KOBO  DESIGN』の和田政廣(わだまさひろ)さんです」。

上尾や蓮田を中心に活動するデザイナーの和田さんは、当時、大宮のベーグル屋『Bagel Lapin(ベーグル・ラパン)』の定休日を利用して、月1のスープカレー屋を開いていた。そんな和田さんに「僕と一緒に何かやりませんか」と、本人いわく“ノリと勢い”で声をかけたのが、2020年12月。ベーグル屋の一画でスタートした花屋comonsのはじまりだ。意外にも、花に出合う前は「自分に自信がなかった」という森さん。花のアレンジを続けていくうちに「これなら売れるよ」「やってみなよ」という周囲の声が背中を押してくれた。

「和田さんも、ラパンの店主の角井太一(つのいたいち)さんも、本当にフランクに『やろうよ』と言ってくれたのはありがたかったですね」。

「僕自身にというよりも、花が感謝されるのが本当に嬉しいんです」(森さん)

comonsに並ぶ花たちは、いわゆる色数が多く華やかな花屋のイメージとは少し違う。名前を知っている花を見つけるほうが難しいくらい個性的で、静かな存在感がある。

「月1回から始まったので、生花が残ってしまうともう次までもたないですよね。それなら、最初からドライになる花を仕入れればいいんだ、と。ドライにして、長く楽しんでもらえるほうが嬉しいですし。それに、せっかく本業とは別で花屋をやっているのだから、みなさんがほかで見たことのない、形や質感が特徴的なおもしろい花を届けたいという思いがあります」。

本業と並行しながらという制限があるなかで生まれた特色を生かし、結果的に新しい方たちとのつながりや、お店やイベントへの出店のお誘いが自然と舞い込んでくるようになる。

私自身もまた、“おもしろい人がいる”と聞きつけて、BANKARAの姉妹店である古着屋『tokiwa』で開かれた花屋に足を運んだうちのひとり。

tokiwaでの出店の様子(写真提供:森航太さん)

初めて見る花々の解説を、よどみなく、楽しそうに話す森さんになかば圧倒されながら、白とグリーンでシックにまとめられたスワッグを購入。その翌週には、ご自宅で開催されるワークショップに参加していた。

自宅を開かれた場所へ

2023年から、自宅でワークショップを開くことになったのは、意外にも偶然なのだという。

「当初は、ご依頼を受けてカフェのスペースでワークショップを開いていたんですが、お店の都合で前日になって場所が使えなくなってしまって。この日のために予定を空けてくれた人たちがいるので、さてどうしようかと。仕方なく自宅でやってみたら、これがめっちゃ楽しかったんです」。

花材を運ぶ必要がなく、時間にも融通が効き、好きなレコードをかけながらゆったり進められるワークショップは、主催としてのメリットも大きかった。

仕入れた花を保管したり、作業場として活用している和室。ワークショップ当日はテーブルにずらっと花が置かれる

花材に制限は設けず、使い放題という大盤振る舞いっぷりも、comonsならでは。私が訪れたときも、常連さんと思われる方が手土産を片手に遊びに来て、慣れた手つきで花を選び「ここにもうちょっと何か入れたいのだけど」と、友人に相談するようにスワッグを仕上げていく様子が印象的だった。

「もともと人を集めるのが好きなんです。『みんなでつながろうぜ!』というスタンスで。ワークショップ以外にも、ホームパーティや、シェフを招いたご飯会を開いたりして。昔からの友人もいますが、それ以上に、花やイベントをきっかけに出会った人たちが多いです。横のつながりが増えていって『10人までなら呼んでいいよ』というと、僕自身は誰にも声をかけていないのに、15人くらい集まっちゃったりして(笑)」。

「ワークショップ中に洗濯物を取り込むことも(笑)。いらっしゃる方も、僕も、いたって自由です」(森さん)

そんな開かれた場所となった森さんの自宅。玄関スペースにはイベントのポスターや写真、仲間たちとの熱気が伝わる集合写真が飾られ、食器棚の上には、彼がどれだけ多くの人に愛されているかを視覚化するように、いただきものなのだろうなと思われる包み紙たちがこんもりと山をつくっていた。

つながりから、音楽フェスへ

2025年12月に第7回目が開催されたキャンプサイトでの音楽フェス「oto camp」。そこに至ったのもやはり、花屋からつながった出会いだった。

「大宮の氷川参道沿いで開かれた写真展に、Bagel Lapinや和田さんのカレー屋と並んで花屋の出店をしていました。そこに、写真展の参加者の大学時代の先輩だというサックス奏者の方がお客さんとして来てくれたんです。その場で演奏もしてくれて!『音出しできる場所を探している』という彼に、和田さんの知り合いのキャンプ場を提案したのがきっかけです。最初は、プレオープンのキャンプ場に20人くらいで集まって、知り合いの演奏家の人たちを誘って、でっかい鍋で焼そばをつくるような、のんびりしたイベントでした」。

(写真提供:森航太さん)

そこから昨年までに7回、スピンオフを含めればそれ以上の開催を実現し、20組以上のアーティスト、10店舗以上の飲食ブース、20以上のショップと100人以上のゲストが集まる大きな音楽フェスになった。

フェスが大きくなるにつれて運営側の負担や責任も大きくなる。と同時に、まちを盛り上げようという志を持った人や団体のサポートも手厚くなっていった。「さすがにここまでの想像はしていなかったですが」と遠慮しながらも「学生の頃から音楽が好きで、ずっと聴いていて、音楽をやっている方たちへのリスペクトの気持ちがあります。だからこそ、イベントの主催者という形で音楽に関われるのが本当に光栄で、嬉しいです」と素直な喜びを教えてくれた。

部屋に置かれていたジャンクカメラでポージング。実は、イベントの撮影などカメラマンとしても活動されている

無粋ながら「身内でのんびりのままでもいいな」とは思わなかった?と尋ねると、「それなら、ホームパーティで充分できることなので。終わった直後から『次はいつですか』と声をかけてくれるお客さんや、フェスの撤収のタイミングでもう次の企画をしているような仲間に囲まれているんです。ここまで来たらもう、やってやるか!という感じです」と力強い返事。

そこまでして彼を突き動かすものは何なのだろうと重ねて尋ねれば「感謝に応えたい」思いが強いと言う。「バイタリティがすごくあるタイプだと思われがちなんですが、そういうわけでもなくて。それでも続けたい、やりたいと思えるのは、周りにいる方たちがポジティブな意見や、感謝を伝えてくれるからですね。いつもその声に背中を押されている感じです。あとは、自分が育って、学生の頃から遊んでいた大宮を起点にいろんな人と出会えて、こうしてイベントができることに縁みたいなものも感じています」。

「誰かのスタートラインになれたら」

作業療法士、花屋、イベント主催者、他にも“たまたまの成り行き”と言うには収まらない肩書きと素質をもつ森さん。その背景にはいつだって誰かとの出会いや、背中を押してくれる声があった。そして今は、イベント主催者として「誰かのスタートラインになれたら」とも語る。

「実際に『こんなことやってみたい』と考えている方の初めての出店場所になったり、oto campがきっかけで『新しい活動をはじめました』という方や、参加者どうしがつながったことで企画が生まれています。そのきっかけの場がつくれているとしたら、こんなに嬉しいことはないです」。

自身の活動については「これからもやりたいことは出てくると思う」と森さん。その時は「自分の気持ちに素直に取り組みたい」とも

森さんにとっての“豊かさ”を尋ねると、やはり「人とのつながり」だと答えてくれた。

「花屋をきっかけに出会った人たちはほんとうに何ものにも代えがたいです。ネットやSNSが優位な時代に、リアルでつながることの大切さを身をもって感じています」。

現時点では、わかりやすい店舗を持つことは考えていないという。「飲食などと違って、場所さえあればどこでもできるのが花屋のいいところです」。花を売ることそのものよりも、花でつながった人たちと生まれる化学反応を楽しんでいるから、場所は問わないということなのだろう。

一方で、主催者として、その場の勢いだけではどうしてもカバーできないさまざまな課題も見えてきた。今後について聞くと「やりたいことを取りこぼさずにやっていくためにも、さらに運営について勉強したい気持ちがあります」と話す。

誰とでも壁を感じさせることなく話し「フランク野郎なので!」と屈託なく笑う。そんな“勢いのある若者”の向こうにときおり見える真剣な眼差しや「全力で臨みたい」というまっすぐな姿勢が、おそらく本人も気づいていないところで関わる多くの人を惹きつけているのだと感じる。かつて、行く先々で「やってみなよ」と手を差し伸べてくれた先輩たちからのバトンを受け取り、誰かのスタートラインの場をつくるまでになった今。独学で走ってきた彼が、ここからさらに勉強と経験を積み重ねたら…と想像すると、こちらまでワクワクしてくるのだ。

現在は、6月上旬の日曜日に、大宮駅周辺の施設で開催予定のoto campスピンオフ企画に向けて準備中とのこと。彼が選んだ花たちを愛でながら、リアルでつながるおもしろさを体感できる日を楽しみに待ちたい。

comons(コモンス)

Instagram:@comons.k.mori
「Bagal Lapin Flower」HP:https://kobodesign.wixsite.com/bagel-lapin-flower

oto camp (オトキャンプ)

Instagram:@otocamp_0312
HP:https://oto-camp.jimdosite.com
※出店情報、イベント情報の詳細はSNSをご確認ください

書き手
ゴトウ サトミ

埼玉出身、さいたま市浦和区在住。実用書、旅メディアの編集を経て、現在は都内勤務の会社員。せっかく暮らすなら、この場所をもっと知って、好きになりたいという思いで『さいのネ』に参加。人の好きなものの話を聞くのが好きです。

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