「デパ地下」といえばみなさんも馴染みのある場所かと思いますが、今日の舞台はなんと「デパそら」。そう、青空広がるデパートの屋上です。浦和駅前の伊勢丹の屋上には、誰もが晴れやかな気分になれる屋上開放区『デパそらURAWA』が広がっています。
このデパそら、キャンプスタイルのBBQを開催したかと思いきや、冬になればこたつを囲んでのお鍋会。取材に訪れたハロウィン目前のこの日はなんと、野外シアターで映画の上映が行われていました。ここって本当に屋上だっけと疑いたくなるような、なんとも不思議な光景です。
「この街のひとが面白がってくれることはなんでもやる!」そう語る、デパそらURAWA代表の長堀哲也(ながほり てつや)さんと、愉快なキャストさんたちによって繰り広げられる屋上物語をご紹介します。


目次
我が子に、もう一度、楽しい屋上を見せてあげたかった
長堀さん:子供の頃、デパートの屋上が大好きだったんです。アトラクションに乗って、ステージを見て、まるで遊園地に来たかのような夢中になれる場所でした。だから大人になって、子どもができたとき、同じようにあの景色を見せてあげたいと思いました。
しかし、いざ息子を連れてきてみると、ガランと何もない寂しい場所になっていて、悔しかったですね。時代の変化には、抗えないということでしょうか。でも、せめて自分たちが住むこの街にだけでも、子どもたちにワクワクする楽しい屋上文化を残してあげたい。そんな想いが、デパそらのきっかけになりました。

小さな街のマルシェから、街がつながる交差点へ
長堀さん:はじまりは、街を舞台にした小さなイベントでした。浦和の個人店さんと一緒に年に1回、大人も子どもも楽しめるマルシェイベントを地元の仲間とやっていたんです。市役所の噴水広場を借りたり、まさにこの伊勢丹さんの屋上を借りたりして。そしてマルシェだけをやっていてもと思い、子どもの頃に慣れ親しんだ屋上を再現しようと、試しに手作りで遊園地をつくってみたんですよ。友人たちが木製のメリーゴーランドをつくってくれたり、ゴーカートのサーキットをやったり、ワークショップをやったり。そうしたら、2日で4000人もの人が来てくれた。伊勢丹さんにとっても衝撃だったようで、とても喜んでくれました。
この非日常を、日常にしたい。単発のイベントで終わらせたくないと思いました。それで、「デパ地下があるなら、デパそらがあってもいいじゃないですか。」と提案したら、伊勢丹の店長さんが賛同してくださって、ぜひまた一緒にやりましょうよと。自分で備品を準備して、今度は屋上に一年中楽しめるBBQ場と遊び場を作るぞと言ったら、友人たちが助けるよと集まってきてくれて、街のみなさんも面白いことやってるねと応援してくれた。今では街づくりに興味がある学生さんまで、キャストとして仲間になってくれています。

こんな流れがあるから、デパそらはただの屋上テナントではないんです。浦和がゆるやかにつながる、街の交差点とでも言いましょうか。デパそらで、キャスト同士がつながっていく、キャストとお客さんが顔馴染みになっていく、さらにはお客さん同士も仲良くなっていく。街の「人と人」の距離が近くなり、地元がもっと面白くなっていく。
デパそらって、ちょっとした街づくりなんじゃないかなと思っています。

面白いことを思いついたら、とにかくやってみよう精神
長堀さん:なにか面白いことを思いついたら、とにかくやってみようよ。そんな風土が、デパそらには根付いています。今回の野外ナイトシアターも、でっかいスクリーンがあったら面白そうだと、つい買ってしまったことがきっかけ(笑)
今年で2度目の開催になるのですが、パワーアップして戻ってきましたよ。学生キャストのみんなが、お客さんがもっと喜んでくれるにはどうすればと、試行錯誤してカタチにしてくれたんです。

学生キャスト川名さん:満足ってなんだろうねって、みんなでよく話すんですよ。私にとって、答えはお客さんをじっくり観察することで見えてくるような気がしています。
例えば、子どもたちが映画の途中で飽きちゃうなんてことよくあるじゃないですか。だから今年の野外シアターでは、途中で飽きちゃった子も、みんなで一緒に楽しめるような、おもちゃで遊べるゾーンを作りました!小さな工夫なのですが、みんなが一緒に笑顔になっている、そんな光景が嬉しかったですね。

学生キャスト田沼さん:上映前に縁日もあったら、子どもたちはワクワクしてくれるだろうなと思いまして。普段は学童のアルバイトもしているのですが、子どもたちにも楽しいからぜひ来てねって宣伝しちゃいました。そんなみんなの顔を思い浮かべながら、自作の駄菓子屋を開いてみたり、ハロウィンっぽくランタンを点灯させてみたり。楽しそうにするみんなを見て、私まで嬉しくなりました。学童を卒業して大きくなっても、みんなとまた再会できる、帰ってこられる居場所になったらなと思ったりもします。まだだいぶ先の、話ですが(笑)

小さな挑戦を繰り返す。新しい空ができていく
学生キャスト岩井さん:この仕事には、マニュアルが全然ありません。だから今日はこんなことができそうと思ったら、即興的にチャレンジしちゃう。先日は、親御さんがBBQを注文している間、手持ち無沙汰にしている子どもを見つけたんです。一緒に遊ぼうよと鬼ごっこをはじめたら、他の子どもたちも集まってきて、ちょっとした運動会に。子どもたちのコミュニティまで、気づけば生まれていました。小さなことでもすぐに試してみて、予想以上に盛り上がったら、チームのみんなにシェアをする。そうしたら、もっと本格的にやろうよなんて、みんなが乗っかってくれる。新しいサービスってこうやってカタチになっていくのかなと、日々興味深いです。


学生キャスト上田さん:このコンテナ、はじめはただの真っ白なコンテナだったんです。私は美大に通っていることもあって、このままではなんかもったいないなと感じていました。でも、私が普通に絵を描いても、芸がない。そこで、子どもたちも巻き込めたら面白いかなと。みんなが手形をペタペタつけるイベントを実施したら、たくさんの方が参加してくれて、いまではひとつのアートになりました。そして先日、当時参加してくれた子が、数年ぶりにデパそらに遊びにきてくれまして。当時のまだ小さかった手形に、自分の手を重ねて、こんなに大きくなったよと報告してくれました。もう私とか、おじさんメンバーなんて、大きくなったんだねと感動で大号泣でしたよ。
誰もが自分らしくいられる居場所を、街のみんなと
長堀さん:子育てをする中で、気づいたことがあります。キャンプとか遊園地とか、我が子を色々な場所に連れていったのですが、彼らにとって一番楽しい場所って、特別な場所なのではないのかもしれない。究極は近所の公園なのかもしれないなって。
近所の友達と思いっきり遊べる瞬間こそが、自分らしくいられるかけがえのない時間なのかもしれませんね。

そして最近、嬉しいことがありました。デパそらに来てくれた男の子から、お手紙をもらったんです。そこには、「デパそらは世界で一番楽しい場所!」と書かれていて…。デパそらが、子どもたちにとって、自分らしくいられる場所になれていたのかもしれないと思うと、胸が熱くなりました。
デパそらに来れば、誰もが、子どもの頃のように自分らしくいられる。近所の公園でいろんな人と仲良くなれたように、距離が近くなっていく。街にもっと愛着が、湧いていく。みんなでいい街にしていこうねって、ひとつになれる。ひとつ空の下、そんなきっかけが生まれていく場所で、デパそらはあり続けたいと思います。


編集後記
誰かをちょっと笑顔にしたい。誰かの背中をちょっと押してあげたい。
そのために、頭を悩ます人がいる。汗を流す人がいる。
誰かのことって、ちょっと面倒だったりもする。現状維持が、ラクに決まってる。
でも、ひとを思う気持ちが熱になり、つい動いてしまう。
デパそらURAWAのみなさんは、そんなひとたちでした。
ひとを想うひとが、こんなにもいたなんて。
大宮に移住してきてまだ1年の私。
なんだか、この街で生きることが、嬉しくなりました。心強く感じました。
「行きつけのバー」というものはまだないけれど、「行きつけの屋上」とでも言ってみたくなるような場所が私にもできました。
デパそらURAWAさん、この度は取材させていただき、ありがとうございました!