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保育士が長くはたらき続けられる保育園であるために。『浦和ひなどり保育園』が行っている取り組みとは

書き手 山田志津香

「せんせい!ねぇこれ、みてみて〜」と自然いっぱいのどんぐり山で、手に何かを握り締め、目をキラキラさせながら先生に駆け寄る子どもたち。

「えーなんだろう。どれどれ?」と言いながら、子どもたちの目線に合わせて先生が腰を落とすと、子供の手から現れたのはコクワガタでした。

一緒に観察しながら、子どもたちのなんとも辻褄の合わないかわいらしい話を「うんうん」と聞いている先生の姿は、優しさそのもの。

これが、『浦和ひなどり保育園』の子ども達と先生の第一印象でした。

木々のトンネルを抜けていくとそこには竹林と広場が。どんぐり山全てが遊び場
先生たちが創作した遊具。チャレンジする気持ちを大切に

浦和ひなどり保育園に隣接する医王寺の裏には、「どんぐり山」と呼ばれる裏山があり、子供たちは一年中、自然豊かな環境の中で遊ぶことができます。

また、毎月外部の先生によるアート体験(スマイルアート)や園の先生たちによる創作遊び、田植えなどの自然体験など、子どもたちの生活が楽しくなる工夫を散りばめているそう。

そして、元保育士である書き手の山田がこの浦和ひなどり保育園のもう一つの魅力としてお伝えしたいのが、先生たちが長くはたらき続けられる保育園であるということです。

一体どのような取り組みをしているのかお話を伺いました。

丸山和彦(まるやま わげん) 園長先生

子どもたちと同じように職員を大切にする

―― それでは、丸山園長先生どうぞよろしくお願いします。
本日は先生たちが長くはたらき続けられる保育園であるために、どのような取り組みをされているかについてお話をお聞かせください。

丸山園長 : こちらこそよろしくお願いします。
昨今では保育者のブラックな労働環境についてメディアで取り上げられることも増え、また社会全体での働き方改革が話題になっていますよね。

そのような状況の中で先生たちが長くはたらき続けたいと思ってもらうために、大切にしていることが二つあります。

一つめは「良い保育とは何か」を園に関わっている全員で話し合い、実現のために必要な方法論を定め、力を合わせて日々の保育に真摯に取り組むこと。
二つめは風通しよく話しあえる環境を整え、時代背景や子供の変化に合わせて方法論を柔軟に変化させることです。

お昼寝前の静けさ。この後ろでは、給食の片付けや子どもたちのお着替え、トイレと職員みんな大忙し

―― 園全体で話し合いを重ねた上で、同じ方向性を向くことはとても大切ですよね。
一方で一度方法論を定めても、目まぐるしく変化する現場では正しく機能していないという話をよく聞きます。

その中で風通しよく話しあえる環境を整え、時代背景や子供の変化に合わせて方法論を柔軟に変化させることは多くの園にとって課題なのではないかと感じました。

保育現場は子どもたちの生活を中心に回っているので予定通りにいかないことが多く、慢性的な人員不足もあって、日々時間に追われていると思います。
ひなどり保育園ではどのように風通しよく話し合える時間を確保し、限られた時間の中でどのような話し合いを行っているのでしょうか。

丸山園長 : 園では話し合いの内容によって様々な形態を設けています。
その中でも近年、特に力を入れているのが各クラスでの「振り返りの話し合い」ですね。

パートさんも含めて出来るだけ多くの保育者が参加できるように、お昼寝時間を活用しています。

伝言は最小限に抑えて、子ども達の肯定的なエピソードや、職員同士の動きの確認、保育のねらいや意図、その反省や評価を出し合う場になるように意識していますね。

山田さんのおっしゃる通り、保育現場は日々時間に追われています。
予定通りにいくことの方が稀ですね(笑)。

その中で話し合いが疎かになると、互いの良き意図がぶつかり合って、関係性が悪化する原因になりかねないと思っていまして。
日々の小さな話し合いの積み重ねが、職員同士の信頼関係を構築し、離職の防止に繋がっていくのだと考えています。

―― 日々時間に追われ、コミュニケーションのすれ違いが起こりやすくなるからこそ、直接話し合える時間を作ることを大切にされているのですね。
話し合いの内容がとても具体的なことに驚きました。どのような内容を話し合うか明確なことで、時間は短くても質の高い話し合いになりそうです。

「振り返りの話しあい」以外には、どのような話し合いの場を設けているのでしょうか。

人工芝を敷くことで屋上も走り回れるスペースに。さまざまなアイテムを使用して、思い思いの遊びをする子どもたち

「縦横斜め」の関係性を構築する

丸山園長 : 業務に関して悩みを抱えている先生と月に1回約30分程度、保育士を束ねる立場である主任の先生と私を含めて3人で話し合う場を設けるようにしています。

場合によっては目標をスモールステップを踏まえて決め、徐々に自信をつけたり悩みの解決につなげてもらうことを意識していますね。

また、ひなどり保育園では年齢別で子どものクラスを設けていて、一人のクラスリーダーと複数人のスタッフがチームとなってクラス毎に意思決定をしてもらう機会が多いのですが、関係性が深まる一方で固定化されてしまことによるリスクもあるなと感じていまして。

クラスの枠を超えた「縦」の関係性を作るために、違うクラスのクラスリーダーと年に3回ほど話し合う「メンター制度」を設けています。

実務だけではなく、実生活のことなど多岐に渡った内容について話すことを意識してもらっていますね。
さまざまな関係性を構築することが、園全体で風通し良く話し合いをすることにつながると考えています。

―― 困った時に相談ができる先輩や上司が複数人いることは、とても心強いですね。
「横」の関係性に比べて「縦」の関係性は意識しないと構築できないと思うので、素晴らしい取り組みだなと感じました。

丸山園長先生 : そうですね。
意識しないと構築できないという部分でいいますと、私たちは職種を飛び越えた「斜め」の関係性構築も大切にしているんです。

―― 「斜め」ですか。
たしかに、園には給食の先生や看護師を始めとした様々な職種の方が関わっていますが、なかなか話しをする機会をもつことが難しいなと感じています。ひなどり保育園ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。

丸山園長先生 : 給食の先生には定期的に子どもたちが行っている給食の配膳に入ってもらうようにしています。普段の子どもたちを知る機会になりますし、その場で保育士と話しをして関係性を構築するきっかけにしてもらっていますね。

また、職員室に子どもたち含め誰でも利用できるオープンスペースを設置することで、さまざまな立場の方が自然とコミュニケーションを取れるきっかけになったらなと。

オープンスペースの普段の様子

―― 「斜め」の関係性を構築し定期的に話し合うことで、より多様な視点で保育について考えることにもつながりそうですね。

相手の立場に立って話を聞き、保育現場での時間を大切にする

―― それでは、ここから主任の栗原靖子(くりはらやすこ)先生にもお話を聞かせていただきます。
保育士を束ねる立場として、大切にしていることはありますでしょうか。

栗原先生 : そうですね。
私自身がそれぞれの役職を体験してきた強みを活かして、出来るだけ相手の置かれた状況を想像し、同じ目線になって話しを聞くことを大切にしています。

例えばクラスリーダーは、他の先生たちの想いも組み取った上で指示を出したり、日々の保育業務を行なった上で行事の予定組みや準備もしなくてはならず、他の役職より業務内容が多いという特徴がありまして。

そういった側面を理解し、相手の立場にたった上で話を聞くようにしているんですよ。
そうすることで素直に思っていることを聞かせてくれたり、保育現場がより良くなるための意見を出してくれるように感じます。

主任の栗原先生

―― 自分が置かれた立場に立って話を聞いてくれていると感じられることで、素直な意見を伝えたくなりそうです。
現場経験が長い栗原先生だからこそ出来るアプローチだなと感じました。

栗原先生 : 相手の立場に立つという意味では、可能な範囲で私自身も保育現場に積極的に入って、サポートすることを心がけています。

――  主任の先生が保育現場に入って関わってくださると現在の自分たちの立場を理解してくれていると感じ、信頼関係の構築につながりそうですね。栗原先生、貴重なお時間をありがとうございました。

他園の見学や様々な研修を積極的に行う理由とは

―― お二人のお話から園全体で同じ方向性を向くこと、定期的に話し合いの場を持ち方法論を柔軟に変化させることの重要性を実感しました。

丸山園長先生 : ありがとうございます。

柔軟に方法論を変化させるために、まずは内部で風通しよく話し合いフラットに意見交換できることがとても大切だなと感じていますね。

そして同じくらい外部の意見やアイディアを取り入れることも意識しているんです。
他園の見学を筆頭に、様々な研修を積極的に行うことも浦和ひなどり保育園の特徴かもしれません。

―― たしかに、外部の意見やアイディアを取り入れることで、より風通しの良い環境作りにつながりそうですね。
保育に限らず、さまざまな組織運営において参考になるお話だったなと感じました。

私の日々の活動にも活かしていきたいと思います。本日は貴重なお時間をありがとうございました。

浦和ひなどり保育園

開園:昭和13年6月
理事長・園長:丸山和彦
住所:埼玉県さいたま市桜区西堀2-6-26
HP : https://www.urawahinadori.jp

書き手
山田志津香

神奈川県藤沢市出身でさいたま市桜区在住。夫、小5、小2の子の4人家族。結婚とともにさいたま市へ。子育てに専念するために保育士の仕事をやめたけれど、てぃ先生のオンラインサロンに携わったことをきっかけに、保育や教育に関する記事を書いています。さいたま市の保育・教育の「豊かさ」を伝えたいです。

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