毎月第4土曜日の朝9時30分。
ちょっぴり早起きな時間に、東大宮駅から徒歩10分ほどの場所にある『cafe MICHIKUSA(カフェ ミチクサ:以下ミチクサ)』に、一人また一人と人が集まる。
「最近だいぶ暖かくなってきたね」
「東大宮公園の方を通ってきたんだけど、かなり緑が青々としてきて気持ちよかったよ」
「〇〇さんお久しぶりですね!元気にしてました?」
穏やかな会話を交わすのは、街を清掃したあと、コーヒーを飲みながら交流することで地域につながりをつくるアクティビティ「Cleanup & Coffee Club」(通称CCC)※の東大宮拠点(以下、CCC東大宮)の参加者たちだ。
ここに集まる人の多くは、古くからの友人でも、職場の同僚でもない。お互いの仕事や肩書き、年齢さえ知らない人もいる。それでも、顔を合わせれば名前を呼び合い、前に交わした会話の続きを楽しむ。
ゴミ拾いをして、コーヒーを飲みながら言葉を交わす。
そうした時間をともに重ねるなかで、少しずつ育まれるこの関係を、知人や顔見知りと呼ぶのは違う気がする。一体、何と呼ぶのがしっくりくるのだろうか。
筆者自身「地域でつながる」と聞くと、どこか密接な人間関係や役割が求められるような印象をもち、少しだけ身構えてしまう。けれども実際に参加してみると、『CCC東大宮』にはそんなイメージとは異なる、気負わずに過ごせる心地よさがあった。
この心地よさは、いったいどのように生まれているのだろうか。
そんな問いを携えて、CCC東大宮を主催・運営するマツオカミユウさんに「CCC東大宮で育まれる関係」や「場づくりに対する想い」、そして「地域で人とつながること」についてお話を伺った。
※「Cleanup & Coffee Club」…東京都豊島区の池袋が発祥。活動の目的は、清掃活動をすることではなく、地域に友達をつくることや、地域に人とのつながりを創出すること。コロナ禍に始まったこの活動は、全国70拠点にまで広がる。(2026年6月現在)『CCC東大宮』もそのひとつ。
目次
ありのままを受け入れてくれる場所との出会い
CCC東大宮をはじめる原点となったのは、マツオカさん自身が『CCC池袋』という場に救われた経験だった。
そんなCCC池袋との出会いはひょんなことからだったという。
仕事で知り合った方のSNSを見ていたときに、関連投稿として表示されたことがCCC池袋を知るきっかけだった。
「当時は、地域活動やコミュニティづくりに強い関心があったわけじゃなくて。ただ、SNSで紹介されていた写真越しに伝わる、参加者の温かい笑顔や和やかな雰囲気に、理由はわからないけれど強く惹きつけられたんです。そのとき勤めていた職場が池袋だったということも後押しになり、『おもしろそうだし、行ってみよう』くらいの、すごく気軽な気持ちで参加しましたね。」
実際に足を運ぶと、そこにいる人たちの自然な距離感と飾らない笑顔が印象的だった。
「近くでお店をされている方や会社員の方、近所に住む親子連れからご年配の方まで、本当にいろんな方がいたんですが、年齢や性別、何をしているかは関係なく、その場にいる一人ひとりが楽しそうに会話していたんです。その雰囲気を、丸ごと好きだなと率直に思ったことを今でもよく覚えています。」
その後もCCC池袋に通い続けるなかで、マツオカさん自身に環境の変化が訪れる。それは、社会人3年目のとき、心にブレーキがかかり仕事を辞めたことだった。
仕事を辞めてからは、スポットワークという働き方を選択したことで、以前のように職場で毎日同じ人と顔を合わせる環境ではなくなる。そこで感じた変化をマツオカさんはこう振り返る。
「正社員として働いていると毎日同じ人と顔を合わせて、フラットな関係性とはいかなくとも、『お互いの人柄をなんとなく知っている関係性』にはなれると思うんです。でも、スポットワークで出会う人との関係性って一回きりで、かつ仕事を教える・教えられるという一方的なものなんですよね。自分だけがその場限りの存在というのでしょうか。人といるのに、まるで一人でいるような。そんな孤独感が、当時の自分にはありました。」
「それから、今振り返ってみると当時の私は、孤独と一緒に、仕事を辞めてしまったことに対してこれからどうなっていくのだろうと『漠然とした不安感』も抱えていて。だからなんですかね、肩書きや年齢のことをすごく気にしていました。」
それでもCCC池袋に足を運べば、顔なじみの人に会え、名前を呼んでもらえる。
無理に誰かに合わせなくていい、仕事や肩書き、年齢といった背景が自分を表すものとして先に置かれることなく、「ありのまま」の私として接してもらえ、その場にいられる。
そんな場所や時間が、マツオカさんの孤独や不安を少しずつ癒していった。

「CCC池袋は自分にとって孤独を解消してくれる場であり、私が私でいられる場所だったんです。だからこそ、居心地のよさや安心感を強く感じ、そのつながりや時間に私は救われているのだと気がつきました。そして、心の底からこの「活動」も、この「場所」も大切で、とても好きなんだと思ったんです。」
自分にとって大切なCCCを、自分が住む街でも
大好きなCCC、自分を救ってくれたCCCが自分の住む街にもあれば――。
そんなマツオカさんの想いを形にする過程で欠かせないのが、CCC東大宮の会場でもある『ミチクサ』との出会いだ。
「イベントに参加する目的でミチクサに足を運んだのが、この場所との出会いでした。
その頃の私は、はっきりとした所属や肩書きがないことをどこか気にしていて、自分の置かれている状況に引け目を感じることもあったんです。でもその場にいる人たちは、私が今何をしているかではなく、一人の個として向き合い、丸ごと受け止めてくれる。そんな懐の広さを確かに感じたんです。」
自然とミチクサに足を運ぶ機会が増え、店主のジョージさんと言葉を交わすうちに、抱いていた「劣等感」や「引け目」が少しずつ薄れていくような感覚があった。

次第に、ミチクサの「まるごとのあなた」というコンセプト、そして店主のジョージさんやこの店に集うお客さんの、一人ひとりをそのまま受け入れるような空気に、CCC池袋との重なりを感じるようになった。
そこには、肩書きや何をしているかによらず、ありのままで関われるという安心感があったのだ。
「あるとき、CCCの清掃活動の後にミチクサの店内でみんなでコーヒーを飲んでいる情景がパッと思い浮かんだんです。思い立ってすぐに『この場所でCCCをやりたい』と店主のジョージさんにお願いしたところ、二つ返事でOKをもらえて。CCC東大宮が実現したんです。」
気負わずにいける、顔なじみと会える場所として
CCC東大宮の活動は、簡単な自己紹介からはじまり、清掃活動、コーヒーを飲みながらの雑談、最後に宣伝したいことがある人のための宣伝タイムというシンプルな流れだ。
特別な知識や経験がなくてもできるゴミ拾いをして、コーヒーを飲みながら同じ時間を過ごす。特別な肩書きや属性がなくても一緒にできる行為だからこその気楽さがある。ゴミ拾いやコーヒーを飲むという行為が間にあるから、無理に場を持たせようと一生懸命話す必要もない。
こうした活動そのものがもつ気軽さは、CCCがもつ大きな魅力のひとつだろう。
ただ、CCC東大宮には、活動のよさだけでは説明しきれない居心地のよさがあるのだ。

「場をつくっていくうえで、顔なじみが生まれること。そして、自分らしくありのままでいられる、つまり気負わずにいられることを大事にしたいと思っているんです。」
その想いはシンプルな活動の中にも、さりげない工夫として込められている。
例えば、自己紹介。「CCCで呼ばれたい名前」と「どこから来たか」に加えて、「好きなおでんの具材」や「おすすめの桜スポット」など、季節ごとのテーマを設けて一言二言話してもらうようにしている。
「テーマを設けて話してもらうのには、まず場を和ませたいという目的があります。暮らしとか日常とか、身近な話題を話している瞬間ってあまり肩肘を張らない気がするんですよね。自己紹介だと『普段はこういう仕事をしています』とか、『こういう活動をしています』のように、自分をプレゼンするような場があったりするじゃないですか。いい、悪いじゃなく、そこに堅苦しさや息苦しさを感じちゃう人もいると思っていて。もちろん話したければ話してもらっていいんですが、それを強制するのは、この場で大切にしたいことから離れてしまう感覚があります。」
さらに、テーマを設けているのは、肩書きや属性とは違う、その人らしさが自然と見えるようにするためでもあるという。
話しやすい何気ないテーマでも、それぞれの個性が意外にも表れ、共通点や違いが見えるのだ。そして、これがなかなかに盛り上がる。
「ここに来ればこの人に会えるという『顔が見える関係』をつないでいきたいと考えると、『呼ばれたい名前』や『どこから来たか』だけだと、やや物足りないかなというのが本音です。少なくとも私は、顔が見える関係というのは単に『会ったことがある』という条件を満たすだけでは、つくれないと思っていて。例えば、好きなこととか興味のあることとか。その人らしい一面をお互いに知っていることが必要だと思うんですよね。」
筆者は、CCC東大宮の参加者と別の地域イベントで偶然顔を合わせたことがある。そのときにこんな言葉を聞いた。
「CCCで出会った顔なじみの方に会えると嬉しいんです。お互いのことをすごく詳しく知っているわけじゃないかもしれないけど、顔を合わせるだけでホッとするというか。そう思える人が、自分の住む街にいることが、すごく豊かなことなんじゃないかなと思うんです。」
それは、マツオカさんが大事にしている「顔が見える関係」の一つの形なのだろう。


また、CCC東大宮は参加無料で、予約も不要。その日の体調や予定に合わせて参加してもしなくてもいい。
とはいえ蓋を開けてみるまで、「誰が来るのか、どれだけ来るのか」もわからないのは不安じゃないかと尋ねると「正直なことを言えば、誰も来なかったら寂しいなと毎回ちょっぴり不安にはなります」と笑いながら話す。
「でも私はCCCが、誰かとのつながりを感じられる安心感とありのままで過ごせる安心感が両立する、心が回復する場でありたいと思っているんです。だから参加するハードルになるようなことは、できる限りなくしていくことを優先したいんですよね。」
どうしても誰かに会う気持ちになれない日もある。早起きして参加すること自体が負担に感じる日もある。「しなくてはならないこと」や「した方がいいこと」に囲まれがちな日常のなかに「してもしなくてもいい」余白があること。その余白があるからこそ、それぞれのペースでこの場と関わりを続けることができるのではないだろうか。

「誰かだけ」にとっての居心地がよい場所にしないために
一方で開催回数を重ね、参加者同士に顔なじみが増えていくことで、新しく訪れる人にとっては参加すること自体に少し勇気が必要になることもある。
マツオカさんは「自分自身がきっかけとなることで、初めて参加した人であっても安心して参加できる。そんな人と人とがつながる場をつくりたい。」と話す。
「自分がしていることは本当に小さなことなんですが…。例えば、何度も参加している方って、すでにこの場でした自分の話を、あえてもう一度することってないと思うんです。だからといって、無理に同じ話を何度もしてもらうのも不自然なコミュニケーションじゃないですか。なので、私から、初めて参加した方に対して、何度も参加している方のことを一緒に過ごしたエピソードを交えて紹介するようにしています。『〇〇さんって鳥にすごく詳しくて、ゴミ拾いのときもたくさんお話してくださるんです』みたいに。」
マツオカさんが伝えるのは、その人の肩書きや所属ではなく、あくまでもその人らしい一面なのだ。
だから初めての参加であっても、他の参加者の人柄がなんとなく見え、話しかけやすい。
「もちろん、それぞれに大っぴらに話されたくないことや知られたくないことはあると思うので、そこは気をつけています。でもできあがっている輪に入ったり、自分から誰かに話しかけたりするのって、少なからず勇気がいることだと思うんですよね。だから、つながりをつくるためには、つなぐ人がいる必要もあるのかなと思っていて。その中で私ができることをやっている感じですね。」
印象的だったのが、「こうすれば場がうまく回る」といった運営のノウハウで場をコントロールしようとしない姿勢だ。
マツオカさんが大切にしているのは、初めて参加した人も、継続して参加している人も、誰もが肩肘を張らず、少しでもその人らしくいられること。
その想いは、マツオカさん自身の振る舞いだけではなく、この場に集う人たちの間にも少しずつ広がっている。だからこそ、初めて訪れた人でも、周囲の人と自然な距離感で関わりながらその場で過ごすことができるのだろう。


CCCを超えて、人と、東大宮という街とつながる
CCC東大宮で生まれる「つながり」は、身近な日常でも感じられるものだと、マツオカさんは話す。
「普段何気なく歩いているときに、参加者の方から教えてもらったお店に気がついたり、雑草に詳しい参加者との会話を思い出して、道端の草花に目が向いたり。活動をしていないときにも、顔が思い浮かび、その人とのつながりを感じられる瞬間があるんです。」
そうした時間を積み重ねていくうちに、東大宮という街の見え方も少しずつ変化していった。
「回を重ねるうちに、『あのお店が美味しいよ』『ここは桜が綺麗なんだよ』とか、今まで知らなかったこの街の情報に触れる機会が増えていきました。あまり大きな声では言えませんが、住み始めた頃、東大宮には何もないと思い込んでいたんです(笑)。でも、CCC東大宮で出会った方たちを通じて、たくさんいいところを知り、実際に足を運んだりするうちに、どんどん街のよさを発見していって。そうやって少しずつ自分の住む東大宮での暮らしが心地よいものになり、楽しくなっていきました。」
CCC東大宮での出会いやつながりを通じて、マツオカさん自身が経験した東大宮という街との出会いを他の人にも伝えていきたい。その想いを形にしたもののひとつが、東大宮のお店情報をまとめた「東大宮MAP」だ。
「CCC東大宮には、東大宮以外の街から来ていただいている方もいらっしゃるんです。そうした方にも、せっかくだから東大宮を楽しんでもらえたらいいなという想いもあって。この街に暮らす人だけでなく、そうでない人にも、街を楽しんでもらえるツールにしていけたら嬉しいなと思っています。」

CCC東大宮にも持参しているマップ。このマップがきっかけで、「ここ行ったことがある!」「ここ気になっていたんだよね」と、参加者同士で会話が弾む
「最近だとSNSを使って、お店を探す人も多いですよね。便利でいいと思う一方で、人から直接教えてもらったお店に行くことは、その人との会話や思い出といった『ストーリー』も一緒に味わえるよさがあると思うんです。」
足を運んだ後に、その感想を教えてくれた人と共有したり、今度は自分が誰かにその場所を教えたり。そうやって自分が感じたことや街のよさを誰かと分かち合えることにも、喜びがあると語る。
「『CCC東大宮』を通じた人とのつながりをきっかけに、街を知る。そうすることで今より少し身近な暮らしが楽しくなり、さらに街を好きになっていく。そんな光景が広がっていったらいいなと思っています。」
せかせかせずに、丁寧につながりを紡ぐ
マツオカさんの活動は、CCC東大宮の場づくりだけにとどまらない。
今後は、近隣の大学生など、さらに多くの人に参加してもらえる環境づくりや、マップをみんなで作り上げる企画なども構想中。さらに、ミチクサを拠点とした「ミチクサグッドモーニングクラブ」という新しいコミュニティ活動もスタートさせた。
こうした取り組みもまた、東大宮という街で、人と人が、人と街がつながるきっかけを増やしていくためのものだ。

「関係性をつくっていった先に何があるのか、助け合える関係性が生まれるのか。それはここに関わる人たちと一緒に考えていきたいです。ただ、つながりって、せかせかつくるものじゃないと思うんです。丁寧に、ゆっくりと。これからもそんな風にやっていきたいですね。」
年齢や性別、肩書きにとらわれず、ありのままの自分でいられる場所。
マツオカさんが東大宮ではじめたこの場所は、今日もゆるやかで心地のよい、誰かとの、そして東大宮とのつながりを生み出している。
「ここは私自身のための場所なんです。誰かにとっての孤独を癒したいとか、そういった高尚なことがしたいわけじゃなくて。ただただ自分が救われた場所、自分があってほしいと思う場所をつくり続けていきたい。結果的にそれが誰かのためになっていたのなら、誰かの日常が少しだけ鮮やかで楽しいものになっていたのなら、何よりも嬉しいことだなと思います。」
編集後記
つながり方には、いろいろな形がある。
特定の目的によってつながったり、興味関心でつながったり、同じ属性でつながったり。
でも、CCC東大宮でのつながりはそうしたものとは少し違う。
ではそこで生まれる関係とは一体なんなのだろうか。
CCCは、この関係を「地域の友達」と表現している。
なんでも話せる親友というわけでもない。休日を一緒に過ごすほど近い関係でもない。
それでも、日常のふとした瞬間にその人とのつながりを思い出したり、街で偶然出会えば嬉しくなる。
そんな関係を「地域の友達」と呼ぶのは、案外しっくりくるものだ。
そして、そんな友達が自分の暮らす街にいることは、私の日常を少しだけ豊かなものに変えてくれる。
次の第4土曜日、もし少しだけ早起きできたならば、東大宮で会える地域の友達に会いに行こう。そう思うのだ。


